2007'05.13 (Sun) 00:38
〜 旅は続く 〜
「次はどこに?」
「そうね〜、各地で復活したドラゴンロードたちを倒しながら、別の大陸でも目指すとか」
あたしと、カリムは二人で街道を歩いていた。
クラールを倒した後、あたしはヴォラケシュの居場所を聞きだしたが、結局、彼と会うことはできなかった。代わりに彼の夫人を倒したり、その夫人を狙っていた冒険者、勇猛なるジルタと言う有名人とであったり、ヴォラケシュの復活させたハイドラゴンロードのマーガスを倒したり、色々あったが。
まあ、おおむね平和である。
残念なこともいくつかあった。タマリアの崩壊である。ヴォラケシュ卿に抵抗し続けた最大の自由都市は焼け野原の瓦礫になり、バラス先生は……別の都市に消えていった。っか、あの人の心配だけはするまいと心に誓った。
そして今、あの戦いで知り合ったカリムとこうして同じ街道を歩いている。
「いや、ほら、最後の戦い。俺は参加できなかったからさ」
「ああ、マーガスね」
ハイドラゴンロード。
孤独な竜王。
あたしに倒されたことで、あの竜王は救われたのだろうか?
「それにしても、クラールと戦っていた時、ずいぶん怒っていたけど……」
「な〜に、あたしが怒るのがそんなに変?」
「い、いや、けど……」
確かに、あたしは大抵の物事では動じないし怒らない。自分に降りかかる悲劇も他人に起きた不幸にも、悔しがったり同情をしたりはするが、怒るのはアレが久しぶりだ。
「何で怒ったのか、聞きたい?」
「別に……」
うぁー、滅茶苦茶わかりやすい反応。まあ、いいか別に減るもんじゃないし。
「えっと人って、基本的に身勝手で、馬鹿で、お調子者で、意地悪で、臆病で、好き勝手やっている生き物だからさ、善悪とかはあんまり気にしないようにしようって、だけど、どこかで線引きが必要でしょ? だから、あたしは『生き方』を尊重しようと思ったの。そりゃ、なりたくてなった人生じゃないかもしれないよ。だけど、例えどんな人生はあって、悪いことばかりでも、苦しいことばかりでも、望んだものじゃなくても、その人生は確かにあって、ソレを冒涜にするのは、誰にも許されないことだと、あたしは思う」
クラールのあの行為は、生き方も死に方さえも冒涜したものだ。
だから、多分あたしは珍しく怒ったのだろう。
「っとまあ、そんなあたしの線引きで、あたしの中でアイツは許せない存在だったの」
あ、けどやっぱり顔は好みだったな〜。
まあ、ソレはともかく、そろそろ目的地に着くころだ。
次の場所では、どんな出会い、どんな危険が待っているのだろうか?
「さて、それじゃあ、今日も充実した一日を送るとしますか」
そう言って、あたしは力強い一歩を踏み出した。
あたしの生き方を後悔しないように。
FIN
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「次はどこに?」
「そうね〜、各地で復活したドラゴンロードたちを倒しながら、別の大陸でも目指すとか」
あたしと、カリムは二人で街道を歩いていた。
クラールを倒した後、あたしはヴォラケシュの居場所を聞きだしたが、結局、彼と会うことはできなかった。代わりに彼の夫人を倒したり、その夫人を狙っていた冒険者、勇猛なるジルタと言う有名人とであったり、ヴォラケシュの復活させたハイドラゴンロードのマーガスを倒したり、色々あったが。
まあ、おおむね平和である。
残念なこともいくつかあった。タマリアの崩壊である。ヴォラケシュ卿に抵抗し続けた最大の自由都市は焼け野原の瓦礫になり、バラス先生は……別の都市に消えていった。っか、あの人の心配だけはするまいと心に誓った。
そして今、あの戦いで知り合ったカリムとこうして同じ街道を歩いている。
「いや、ほら、最後の戦い。俺は参加できなかったからさ」
「ああ、マーガスね」
ハイドラゴンロード。
孤独な竜王。
あたしに倒されたことで、あの竜王は救われたのだろうか?
「それにしても、クラールと戦っていた時、ずいぶん怒っていたけど……」
「な〜に、あたしが怒るのがそんなに変?」
「い、いや、けど……」
確かに、あたしは大抵の物事では動じないし怒らない。自分に降りかかる悲劇も他人に起きた不幸にも、悔しがったり同情をしたりはするが、怒るのはアレが久しぶりだ。
「何で怒ったのか、聞きたい?」
「別に……」
うぁー、滅茶苦茶わかりやすい反応。まあ、いいか別に減るもんじゃないし。
「えっと人って、基本的に身勝手で、馬鹿で、お調子者で、意地悪で、臆病で、好き勝手やっている生き物だからさ、善悪とかはあんまり気にしないようにしようって、だけど、どこかで線引きが必要でしょ? だから、あたしは『生き方』を尊重しようと思ったの。そりゃ、なりたくてなった人生じゃないかもしれないよ。だけど、例えどんな人生はあって、悪いことばかりでも、苦しいことばかりでも、望んだものじゃなくても、その人生は確かにあって、ソレを冒涜にするのは、誰にも許されないことだと、あたしは思う」
クラールのあの行為は、生き方も死に方さえも冒涜したものだ。
だから、多分あたしは珍しく怒ったのだろう。
「っとまあ、そんなあたしの線引きで、あたしの中でアイツは許せない存在だったの」
あ、けどやっぱり顔は好みだったな〜。
まあ、ソレはともかく、そろそろ目的地に着くころだ。
次の場所では、どんな出会い、どんな危険が待っているのだろうか?
「さて、それじゃあ、今日も充実した一日を送るとしますか」
そう言って、あたしは力強い一歩を踏み出した。
あたしの生き方を後悔しないように。
FIN
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2007'05.11 (Fri) 10:08
〜 骨のリッチ・クラール 〜
「ふふ、お嬢さん。また会ったね」
「お久しぶり、ソレがアンタの本当の姿なわけ? 違うでしょ、早く骸骨になりなさいよ」
以前、グレイヘブンで会った男。
フードを着ているが、今度は顔を隠していない。
肩の辺りで切られた蒼みがかった黒の髪、気だるそうだが、同時に深い知性の宿った瞳、顔は彫りの深い顔立ちで、かなりの美形。正直な話、かなりあたし好みの良い顔なのだが、ソレは置いておこう。
「お前が、エントたちの住処を追いやって、村をあんなふうにした張本人か!」
カリムの言葉に、クラールは「ふふ」とお決まりの笑い声を言うと、そうだと告げる。
「エントたちの守る領域にあるドラゴンルーンを手に入れる為にね。彼らでは、あの秘宝は使いこなせないだろうから、ヴォラケシュにあげたのさ」
ドラゴンルーン、遥か昔に滅びたハイドラゴンの心臓とも言うべきモノであり、ソレがもたらす力は、既存のアーティファクトを遥かに凌駕する力を秘めている。
もしもソレの力がすべて解き放たれたのならば、遥か昔に滅びた伝説の竜王たちを復活させることも不可能ではない。
「なんてモノを……、急いで止めないと! クラール、ヴォラケシュの居場所はどこ?」
「ふふ、その質問に対する答えは私を倒した後にしようか」
何てお約束な。
だけど、選択の余地はない。こいつを倒して、ヴォラケシュの居場所を吐かせる。
「もうひとつ、あの村は? エントたちのドラゴンルーンを奪うだけなら、村をゾンビに変える必要はないでしょ?」
すると、ああと彼は思い出したかのように言う。
「ファローの軍団にしようと思ってね。墓から掘り返したものばかりじゃ足りなくなってきたから、新鮮な死体が必要なのさ。取り敢えず、いつもどおりの生活にもどれと指示を出しておいたけど、うん、うまく動いているようだ」
そして、お決まりになった冷笑を浮かべて「ふふ」と笑う。
「へぇ、いいね、その顔、その目、その殺意、ふふ、それじゃあ、そろそろ始めようか」
あたしのルーン詠唱、クラールの死霊魔術詠唱が同時に始まる。
「ふふ、お嬢さん。また会ったね」
「お久しぶり、ソレがアンタの本当の姿なわけ? 違うでしょ、早く骸骨になりなさいよ」
以前、グレイヘブンで会った男。
フードを着ているが、今度は顔を隠していない。
肩の辺りで切られた蒼みがかった黒の髪、気だるそうだが、同時に深い知性の宿った瞳、顔は彫りの深い顔立ちで、かなりの美形。正直な話、かなりあたし好みの良い顔なのだが、ソレは置いておこう。
「お前が、エントたちの住処を追いやって、村をあんなふうにした張本人か!」
カリムの言葉に、クラールは「ふふ」とお決まりの笑い声を言うと、そうだと告げる。
「エントたちの守る領域にあるドラゴンルーンを手に入れる為にね。彼らでは、あの秘宝は使いこなせないだろうから、ヴォラケシュにあげたのさ」
ドラゴンルーン、遥か昔に滅びたハイドラゴンの心臓とも言うべきモノであり、ソレがもたらす力は、既存のアーティファクトを遥かに凌駕する力を秘めている。
もしもソレの力がすべて解き放たれたのならば、遥か昔に滅びた伝説の竜王たちを復活させることも不可能ではない。
「なんてモノを……、急いで止めないと! クラール、ヴォラケシュの居場所はどこ?」
「ふふ、その質問に対する答えは私を倒した後にしようか」
何てお約束な。
だけど、選択の余地はない。こいつを倒して、ヴォラケシュの居場所を吐かせる。
「もうひとつ、あの村は? エントたちのドラゴンルーンを奪うだけなら、村をゾンビに変える必要はないでしょ?」
すると、ああと彼は思い出したかのように言う。
「ファローの軍団にしようと思ってね。墓から掘り返したものばかりじゃ足りなくなってきたから、新鮮な死体が必要なのさ。取り敢えず、いつもどおりの生活にもどれと指示を出しておいたけど、うん、うまく動いているようだ」
そして、お決まりになった冷笑を浮かべて「ふふ」と笑う。
「へぇ、いいね、その顔、その目、その殺意、ふふ、それじゃあ、そろそろ始めようか」
あたしのルーン詠唱、クラールの死霊魔術詠唱が同時に始まる。
2007'05.10 (Thu) 23:12
〜 暴れ狂うエント 〜
エントは古い木の精である。普段は温厚なエントたちがヴォラケシュの死霊魔術の実験で、暴れているらしいとの噂を聞きつけたあたしは、彼らを退治すると同時に、ヴォラケシュの手がかりを探すことにした。そして数日前、エントたちに襲われた村の惨状を目の当たりにして、カリムがやり場のない怒りで拳を握り締める。
「くそ!」
ルーン使いとして、彼の死霊魔術の技量の高さに感心するが、それ以上にカリム同様の怒りが込み上げてくる。ソレほどまでこの村はひどい破壊であり、冒涜であった。
村の住人は全員死んでいた。
だが、彼らは変わらず生活をしていた。物言わぬ不死者となり、村で暮らしていた。
この冒涜が、あたしにはどうしても許せない。
あたしは二度ほど×の印をきって唱える。
「イングワズイング、豊穣の印、幸福を示す印よ。彼らの生は終わった安らかな眠りを」
それで、すべての死者たちは土に返っていった。
最初はただ頼まれただけだった。だけど、コレは許すことができない。
ヴォラケシュ、もうバラス先生の頼みは関係ない。死を冒涜すること、生きていた時間をあざ笑うようなこの行為は、絶対に許せない。
「お、おい、アスタラ?」
「大丈夫、だけど、コレをやった奴は許さないよ」
「あたりまえだ!」
そう言って、あたしとカリムは滅びた村の調査を開始した。
けど、不可思議だ。
一人でやったにしては、ずいぶんと魔術の系統が違う。ルーン使いがルーンを極めて、それ以外の魔術が使えないように、死霊魔術もソレを極めれば、それ以外は使えないのが通例である。もっとも、ヴォラケシュは型にはまった人物ではない為、断言はできないが、この地の汚染は死霊魔術とは別物のような気がする。
となると、他に考えられる可能性はヴォラケシュ以外の人物で、彼と同等かそれ以上の力を有する存在。
彼の腹心だろうか?
すでに集めた情報では、ヴォラケシュ側の主要人物を何人か把握してある。
ヴォラケシュ卿の腹心、守護者であり、暗殺者である堕ちたる騎士ヴァイリーン、噂を聞く限りコイツに魔術を使うセンスはない。同じ理由により、各地の不死者を率いている青白き騎士ファローも除外する。残るは、ヴォラケシュに死の秘密を教えたと言う吸血鬼、貴婦人カソーリ。だがしかし、彼女自身が館から出てまでヴォラケシュの手伝いをするとは思えない。ヴォラケシュ夫人だが、彼女は精神魔術を得意としていると為、違うだろう。
となると、最後に残るのが。
骨のリッチ、クラール。
ヴォラケシュの師であり、「影のアカデミー」創始者。
「この事件を解決したら、また会うんでしょうね」
あたしは、ぼやきながら、今は暴れるエントを退治にしようと、彼らの住処に向かった。
エントは古い木の精である。普段は温厚なエントたちがヴォラケシュの死霊魔術の実験で、暴れているらしいとの噂を聞きつけたあたしは、彼らを退治すると同時に、ヴォラケシュの手がかりを探すことにした。そして数日前、エントたちに襲われた村の惨状を目の当たりにして、カリムがやり場のない怒りで拳を握り締める。
「くそ!」
ルーン使いとして、彼の死霊魔術の技量の高さに感心するが、それ以上にカリム同様の怒りが込み上げてくる。ソレほどまでこの村はひどい破壊であり、冒涜であった。
村の住人は全員死んでいた。
だが、彼らは変わらず生活をしていた。物言わぬ不死者となり、村で暮らしていた。
この冒涜が、あたしにはどうしても許せない。
あたしは二度ほど×の印をきって唱える。
「イングワズイング、豊穣の印、幸福を示す印よ。彼らの生は終わった安らかな眠りを」
それで、すべての死者たちは土に返っていった。
最初はただ頼まれただけだった。だけど、コレは許すことができない。
ヴォラケシュ、もうバラス先生の頼みは関係ない。死を冒涜すること、生きていた時間をあざ笑うようなこの行為は、絶対に許せない。
「お、おい、アスタラ?」
「大丈夫、だけど、コレをやった奴は許さないよ」
「あたりまえだ!」
そう言って、あたしとカリムは滅びた村の調査を開始した。
けど、不可思議だ。
一人でやったにしては、ずいぶんと魔術の系統が違う。ルーン使いがルーンを極めて、それ以外の魔術が使えないように、死霊魔術もソレを極めれば、それ以外は使えないのが通例である。もっとも、ヴォラケシュは型にはまった人物ではない為、断言はできないが、この地の汚染は死霊魔術とは別物のような気がする。
となると、他に考えられる可能性はヴォラケシュ以外の人物で、彼と同等かそれ以上の力を有する存在。
彼の腹心だろうか?
すでに集めた情報では、ヴォラケシュ側の主要人物を何人か把握してある。
ヴォラケシュ卿の腹心、守護者であり、暗殺者である堕ちたる騎士ヴァイリーン、噂を聞く限りコイツに魔術を使うセンスはない。同じ理由により、各地の不死者を率いている青白き騎士ファローも除外する。残るは、ヴォラケシュに死の秘密を教えたと言う吸血鬼、貴婦人カソーリ。だがしかし、彼女自身が館から出てまでヴォラケシュの手伝いをするとは思えない。ヴォラケシュ夫人だが、彼女は精神魔術を得意としていると為、違うだろう。
となると、最後に残るのが。
骨のリッチ、クラール。
ヴォラケシュの師であり、「影のアカデミー」創始者。
「この事件を解決したら、また会うんでしょうね」
あたしは、ぼやきながら、今は暴れるエントを退治にしようと、彼らの住処に向かった。
2007'05.10 (Thu) 01:04
〜 ルーンの使徒 〜
フロストゲートには着いて、取り敢えず、バラス先生の名前を出して、領主と謁見したが、かなり怯えているらしく、サッサと捕まえろと文句を言われるだけであった。
ソレほどまでに、ヴォラケシュ卿の脅威は日に日に拡大しているようだ。だがそれでも、この都市独特の活気があった。
フロストゲート特有の氷でできた彫像や、風の精霊たちが見せるダンスなど、見るものはたくさんある。
「頼まれていたもの、買ってきたぞ」
「お、ありがと〜」
馬車で一緒だった青年、カリムにあたしは礼を言った。
二人で毒蜘蛛の巣穴を見つけて、蜘蛛に囚われていた人々を助け出した後、旅を一緒に続けないかと彼は持ちかけてきた。正直、カリムは弱いが、一か八かというところで機転の利く男であり、それになにより、一緒にいて気持ちの良い男だ。旅の仲間に申し分ない。
ソレはともかく、あたしはカリムの買ってきてくれたコートを着る。
そう、この都市は八の自由都市の中で、一番寒いのである。あたしの着ている服は耐寒耐熱性があるが、どちらもある為に、どちらか一方に強いというわけでもない。
「うぁ〜、あったかい」
「普通準備とかしてくるだろ?」
「いや、あいにくと時間がなくてさ」
と言いながら、準備の時間を別の時間にしていたと心の中で苦笑する。
「はぁ、それで、次はどこに行くんだ?」
「そんなに張り切らないで、どうせ、トラブルは向こうからやってくるから。ソレまで、のんびりやっておきましょ」
あたしはそう言って、カリムにいった。
「そっだ、立ち位置的にはあたしの従者ってことになったから、今度から『ルーンの使途』カリムって、憲兵とかに尋問されたら言いなさい。そうすれば、現行犯以外なら犯罪ごとで疑われないから」
「ああ……って、いいのか! 会って間もない俺にそんな称号を与えて」
驚いて問うカリムに、あたしは手を軽く振って答える。
「いいよ、あたしは人を見る目はあるし、それに……」
ゴクリとカリムが唾を飲む。
あたしの優しい笑顔に、緊張しているのだろう。可愛いことである。
「もしも、犯罪ごとに関与していたら、あたしがアンタを真っ先にしょっぴくことになるから、そこんところ、よろしく」
こうして、バラス、アスタラ、カリムのピラミッド図が完成した。
フロストゲートには着いて、取り敢えず、バラス先生の名前を出して、領主と謁見したが、かなり怯えているらしく、サッサと捕まえろと文句を言われるだけであった。
ソレほどまでに、ヴォラケシュ卿の脅威は日に日に拡大しているようだ。だがそれでも、この都市独特の活気があった。
フロストゲート特有の氷でできた彫像や、風の精霊たちが見せるダンスなど、見るものはたくさんある。
「頼まれていたもの、買ってきたぞ」
「お、ありがと〜」
馬車で一緒だった青年、カリムにあたしは礼を言った。
二人で毒蜘蛛の巣穴を見つけて、蜘蛛に囚われていた人々を助け出した後、旅を一緒に続けないかと彼は持ちかけてきた。正直、カリムは弱いが、一か八かというところで機転の利く男であり、それになにより、一緒にいて気持ちの良い男だ。旅の仲間に申し分ない。
ソレはともかく、あたしはカリムの買ってきてくれたコートを着る。
そう、この都市は八の自由都市の中で、一番寒いのである。あたしの着ている服は耐寒耐熱性があるが、どちらもある為に、どちらか一方に強いというわけでもない。
「うぁ〜、あったかい」
「普通準備とかしてくるだろ?」
「いや、あいにくと時間がなくてさ」
と言いながら、準備の時間を別の時間にしていたと心の中で苦笑する。
「はぁ、それで、次はどこに行くんだ?」
「そんなに張り切らないで、どうせ、トラブルは向こうからやってくるから。ソレまで、のんびりやっておきましょ」
あたしはそう言って、カリムにいった。
「そっだ、立ち位置的にはあたしの従者ってことになったから、今度から『ルーンの使途』カリムって、憲兵とかに尋問されたら言いなさい。そうすれば、現行犯以外なら犯罪ごとで疑われないから」
「ああ……って、いいのか! 会って間もない俺にそんな称号を与えて」
驚いて問うカリムに、あたしは手を軽く振って答える。
「いいよ、あたしは人を見る目はあるし、それに……」
ゴクリとカリムが唾を飲む。
あたしの優しい笑顔に、緊張しているのだろう。可愛いことである。
「もしも、犯罪ごとに関与していたら、あたしがアンタを真っ先にしょっぴくことになるから、そこんところ、よろしく」
こうして、バラス、アスタラ、カリムのピラミッド図が完成した。
2007'05.09 (Wed) 19:09
〜 猛毒グモの巣 〜
市場で買ったものは「貴き捧げ物」と言うアーティファクトであった。これを持っていれば、あたしのルーンの力は格段に上がる。もっとも、一度使ったらしばらくの間使うことはできない品物である。
ポケットの中にソレを入れて、グレイヘブンを出て、フロストゲートへ行こうと思ったが、さすがに一人で行くのは厳しいので、同じ方面に行く馬車に相乗りさせてもらう。
料金は要らない代わりに、馬車のおじさんはルーン使いであるあたしに護衛を頼んだ。もう一人居た護衛の少年はあたしと一緒なのが不満らしく、「女なんかと一緒に護衛などできるか!」との発言をしたため、実力(ルーン魔術実践編)を見てもらうことになった。
そして今、馬車の旅はおっちゃんと護衛のあたしと少年という構成になったのだが、同じような山道を見て飽きてきた。
そこで、少年に話を振ってみる。
「それにしても、ヴォラケシュって、なかなかの狂人よね。八の自由都市すべてに喧嘩を売るなんて、おかげで、賞金稼ぎが増えたじゃない? アナタもフロストゲートに行くって事は、ヴォラケシュ目当て?」
タマリア、フロストゲート、ヴァイネルヴェールにて、死霊魔術師ヴォラケシュ卿を倒す勇士を援助するとの話が出た為、あたしは一番近いフロストゲートを目指していた。
死霊魔術師ヴォラケシュ。
この男が何を考えて、全自由都市にケンカを挑んだのかは知らないが、そんなことをしてただで済むわけがない。むしろ問題は、あたし以外の人間が先にヴォラケシュを倒すことである。
街道で聞いた噂によれば、灰色の都の継承者ガルダン王子やケロス神殿のコス枢機卿、勇猛なるジルタ、豪傑インガンなど、他にも歴戦の勇者たちがヴォラケシュ卿を倒す為に立ち上がったとか。
雑用として、バラス先生に頼まれたあたしには耳の痛い話だが、ヴォラケシュを倒した人間に与えられる報酬は悪いものじゃない。
ふぅ、人間って生きていく為にお金が必要なのは悲しい現実である。
しかし、当面の問題としては、目の前の青年である。
改めてみると、あたしより二、三年下で十五、六といったところ、意志の強そうな黒い瞳に、あたしの同じ漆黒の短い髪。腰につけた片刃の剣に使い古された革鎧は、サイズが少し大きく、誰かの使い古し、実戦経験はほとんどないだろう。
そして、先程から一言も発しない。そんなにあたしに負けたのがショックだったのだろうか? いくらなんでもフロストゲートまでこんなのと一緒じゃ、気が参ってしまう。
「な〜に、むくれてんのよ。女に負けたのがそんなにプライド傷つけちゃったの?」
青年の肩がピクリと震える。
どうやら図星らしい。
あたしはため息をつきながら、Vの字に両手を素早く伸ばし、二つを胸の前で合わせる。
「アルジスエオルー、ヘラジカの雄の印、我を守る守護の印、我らを災いより守れ!」
馬車に向かって勢いよく飛んできた無数の白い糸は、緑色の結界に当たると力をなくして消えてしまった。どうやら、都市と都市との間を行き来するだけでも、山賊の他に注意するものがいるらしい。
「ほら、何をボケッとしてんのよ! あんたも護衛の仕事を請けたんなら、気持ちを切り替えて仕事に集中しなさい」
青年にそう言うと、あたしは馬車に襲い掛かってきた巨大な蜘蛛たちを見て、攻撃の為のルーンを使うことにした。
市場で買ったものは「貴き捧げ物」と言うアーティファクトであった。これを持っていれば、あたしのルーンの力は格段に上がる。もっとも、一度使ったらしばらくの間使うことはできない品物である。
ポケットの中にソレを入れて、グレイヘブンを出て、フロストゲートへ行こうと思ったが、さすがに一人で行くのは厳しいので、同じ方面に行く馬車に相乗りさせてもらう。
料金は要らない代わりに、馬車のおじさんはルーン使いであるあたしに護衛を頼んだ。もう一人居た護衛の少年はあたしと一緒なのが不満らしく、「女なんかと一緒に護衛などできるか!」との発言をしたため、実力(ルーン魔術実践編)を見てもらうことになった。
そして今、馬車の旅はおっちゃんと護衛のあたしと少年という構成になったのだが、同じような山道を見て飽きてきた。
そこで、少年に話を振ってみる。
「それにしても、ヴォラケシュって、なかなかの狂人よね。八の自由都市すべてに喧嘩を売るなんて、おかげで、賞金稼ぎが増えたじゃない? アナタもフロストゲートに行くって事は、ヴォラケシュ目当て?」
タマリア、フロストゲート、ヴァイネルヴェールにて、死霊魔術師ヴォラケシュ卿を倒す勇士を援助するとの話が出た為、あたしは一番近いフロストゲートを目指していた。
死霊魔術師ヴォラケシュ。
この男が何を考えて、全自由都市にケンカを挑んだのかは知らないが、そんなことをしてただで済むわけがない。むしろ問題は、あたし以外の人間が先にヴォラケシュを倒すことである。
街道で聞いた噂によれば、灰色の都の継承者ガルダン王子やケロス神殿のコス枢機卿、勇猛なるジルタ、豪傑インガンなど、他にも歴戦の勇者たちがヴォラケシュ卿を倒す為に立ち上がったとか。
雑用として、バラス先生に頼まれたあたしには耳の痛い話だが、ヴォラケシュを倒した人間に与えられる報酬は悪いものじゃない。
ふぅ、人間って生きていく為にお金が必要なのは悲しい現実である。
しかし、当面の問題としては、目の前の青年である。
改めてみると、あたしより二、三年下で十五、六といったところ、意志の強そうな黒い瞳に、あたしの同じ漆黒の短い髪。腰につけた片刃の剣に使い古された革鎧は、サイズが少し大きく、誰かの使い古し、実戦経験はほとんどないだろう。
そして、先程から一言も発しない。そんなにあたしに負けたのがショックだったのだろうか? いくらなんでもフロストゲートまでこんなのと一緒じゃ、気が参ってしまう。
「な〜に、むくれてんのよ。女に負けたのがそんなにプライド傷つけちゃったの?」
青年の肩がピクリと震える。
どうやら図星らしい。
あたしはため息をつきながら、Vの字に両手を素早く伸ばし、二つを胸の前で合わせる。
「アルジスエオルー、ヘラジカの雄の印、我を守る守護の印、我らを災いより守れ!」
馬車に向かって勢いよく飛んできた無数の白い糸は、緑色の結界に当たると力をなくして消えてしまった。どうやら、都市と都市との間を行き来するだけでも、山賊の他に注意するものがいるらしい。
「ほら、何をボケッとしてんのよ! あんたも護衛の仕事を請けたんなら、気持ちを切り替えて仕事に集中しなさい」
青年にそう言うと、あたしは馬車に襲い掛かってきた巨大な蜘蛛たちを見て、攻撃の為のルーンを使うことにした。


